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東京地方裁判所 平成元年(む)799号 決定 1990年1月11日

主文

本件各準抗告を棄却する。

理由

一  申立の趣旨及び理由の要旨

本件申立の趣旨及び理由は、申立人代理人作成の準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用するが、要するに、

1  申立人の住居には、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がなかったから、本件捜索差押許可の裁判は違法であり、したがって、これを取消す旨の決定を求める、

2  本件捜索差押に当たって、司法警察員が不必要な強制手段を用いたこと、刑事訴訟法二二二条、一一四条の規定する立会が実質的にはなかったこと、司法警察員が本件捜索差押許可状に記載がなく本件被疑事実と何ら関連性のない物を写真撮影し、その内容をメモしたこと及び司法警察員が差押の必要性のない物を押収したことから、本件捜索差押は違法であり、したがって、本件差押処分を取消す旨の決定を求める、

3  右写真撮影は違法であるから、本件捜索差押の際の写真撮影により得られたネガ及び写真を廃棄し、又は申立人に返還する旨の決定を求める、

というものである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録及び当裁判所の事実取調の結果によれば、以下の事実を認めることができる。すなわち、

東京北簡易裁判所裁判官は、平成元年一一月二日、司法警察員の請求により、被疑者高橋秀敏に対する建造物侵入未遂 被疑事件について、東京都北区田端三丁目六番三号司荘二階一号室申立人方居室及び階段等共用部分を捜索し、右事件の犯行を計画したメモ類並びに被疑者の生活状況を示す預貯金通帳、領収証、請求書、金銭出納帳及び日記帳を差押えることを許可する旨の捜索差押許可状を発付した。司法警察員は、右捜索差押許可状により、同月八日、右申立人方居室において、捜索を行い、高橋秀敏名義の預金通帳二通及び同人依頼にかかる振込金受取書二通(以下、これらを「本件差押物件」という。)を差押えるとともに、右捜索差押の際、写真撮影を行い、同室内で発見した手帳の内容のメモを取った。

2  右事実並びに一件記録及び当裁判所の事実取調の結果に基づき申立人の主張について以下検討する。

(一)  まず、本件申立のうち捜索許可の裁判の取消を求める点は、捜索許可の裁判は刑事訴訟法四二九条の準抗告の対象とされていないから、不適法であり、捜索許可の裁判の適否は、捜索に基づき発見された物に対する差押処分の適否を判断する際に検討されるべき事柄である。また、差押許可の裁判の取消を求める点は、前記のとおり、本件捜索差押許可状に基づいて既に司法警察員が申立人方居室を捜索し差押処分を行っていることが明らかであるから、右差押処分の適否を判断するのに必要な限度で差押許可の裁判の適否を審査すれば足り、それ以上に右裁判の適否を全般的に審査してこれを取消す利益はないと言うべきであって、不適法である。

そして、当裁判所の事実取調の結果によれば、本件差押物件はいずれも平成元年一二月二五日その所有者高橋秀敏に対して還付されたことが明らかであるから、本件差押処分の取消を求める準抗告はその対象を失い申立の利益を欠くに至ったと言うほかなく、したがって、所論指摘の点につき判断するまでもなく不適法として棄却を免れない。

(二)  次に、本件写真撮影の適否について検討するのに、捜索差押の際に捜査機関が、証拠物の証拠価値を保存するために証拠物をその発見された場所、発見された状態において写真撮影することや、捜索差押手続の適法性を担保するためその執行状況を写真撮影することは捜索差押に付随するものとして許されるものと解すべきところ、本件写真撮影の対象となった物件のうち、後記のものを除いては、その写真撮影はいずれも本件捜索差押に付随する写真撮影として許容されるものであって違法ではない。

本件写真撮影にかかる印鑑、ポケット・ティッシュペーパー、電動ひげ剃り機、洋服ダンス内の背広は、本件捜索差押許可状記載の「差し押えるべき物」のいずれにも該当せず、かつ、これらの物件の写真が、床面に並べられ、あるいは接写で撮影されており捜索差押手続の適法性の担保にも資するものではないことから、これらの写真撮影は、右の捜索差押に付随する写真撮影として許容される範囲を逸脱し、違法であると言わなければならない(なお、申立人は被疑者所有の時計及びライターが写真撮影されたと主張し、その旨の申立人作成の報告書が提出されているところ、一件記録及び当裁判所の事実取調の結果によっても右事実の存否は必ずしも明確ではないが、仮に申立人の主張どおりであるとすれば、右写真撮影も前同様違法と言わなければならない。)。

ところで、申立人は、違法な写真撮影により得られたネガ及び写真の廃棄又は申立人への返還を求めているのであるが、このような準抗告の申立は、いずれも刑事訴訟法四三〇条、四二六条の文理等に照らして同法の認めていない不適法なものと言うべきであるから、この点において右申立も棄却を免れない。

3  以上のとおり、本件準抗告の申立は、いずれも不適法であるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により棄却することとして、主文のとおり決定する。

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